パスタを茹でている間に

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考察・村上春樹著『ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles』ビートルズと自殺者達

 短編集「一人称単数」より、『ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles』を考察します。簡単に言うと、この短編はかなり危険な作品です。

”そう、1960年代の後半には、思想の行き詰まりから人が自らの命を絶つこともあったのだ。”ーP.93

”そう、ビートルズの音楽は僕らの周囲を隈無く取り囲んでいたのだ。”ーP.94

 「ウィズ・ザ・ビートルズ」という題名は、もちろんビートルズのLPのタイトルから来ているのですが、「ビートルズと共に」とは、著者の青春時代がビートルズ一色であったのと同時に、自殺者に溢れていたことを同列に扱っている短編です。

 そう、だからこそ同じ言い回しを利用しています。

 そう、そしてこの短編では著者の代表作である「ノルウェイの森」創作のきっかけが語られています。

 著者は「ノルウェイの森」の中で「自殺を引き留める方法は無いのか?」を模索しますが、結局は「そのような方法は無かった」と結論付けています。

With the Beatles

 

 

四段プロット あらすじの代わりに

  1.  かつて少女であった一人の女性のことを、著者は今でもよく覚えていた。彼女は古い校舎の廊下でビートルズの「With the Beatles」を抱え、スカートを翻しながらどこかへ急いでいるようだった。著者はそれ以来、高校で彼女を見かけることは無かった。著者の青春時代はビートルズ全盛の時代で、どこにいてもビートルズの曲が響いていた。
  2.  しかし、当時の著者はジャズが好きで、著者にとっての初めての恋人はイージーリスニング音楽が好きだった。著者と著者の恋人が同じクラスだったときの担任の社会科教師は、思想の行き詰まりが原因で自殺をした。あるとき、著者はデートの約束をしていた彼女を迎えに、彼女の家を訪ねると、お兄さんが出てきて留守を伝えられる。出直そうとするとお兄さんに引き留められ、家の中で待つように招かれる。
  3.  二人に共通の話題はなく、著者は手持ち無沙汰から国語の参考書を読み始めると、お兄さんが何か朗読してほしいと言い出す。著者は仕方なく芥川龍之介の遺稿となった『歯車』から「飛行機」を読み上げた。「誰か僕の眠っているうちにそっと絞め殺してくれるものはないか?」と終わる作品だった。結局、待ち続けても彼女は帰らず、著者がデートの日にちを勘違いしていたようだった。
  4.  それから時を経て、著者が上京し、作家として生計をたて35歳になったころ、思いがけず彼女のお兄さんと再会する。そして著者にとっての初めての恋人が、3年前に自殺をしていたと聞かされる。著者の高校時代のガールフレンドはまだ幼い子供を二人残し、この世を去っていた。医者から処方された睡眠薬を少しずつ貯めておくという、計画的な自殺だった。

問題の抽出 人はなぜ自殺をするのか?

 この短編集「一人称単数」の統一テーマは「私とは誰か?」です。 

 実際に起こった出来事なのか?はさておき、著者は自身の青春時代を取り囲んでいた状況を、かなり正直に語っていると思います。自分が好んで聞いていた曲と、当時の流行歌は異なる場合もあります。

 芥川龍之介の「飛行機」では、飛行機のパイロットは上空の酸素濃度に慣れすぎて、地面の空気に耐えられなくなる飛行機病という症状が紹介されています。

 上手に生きようと思うのであれば、みんなと同じ空気を吸う必要があります。自分の好みと異なる場合でも。

 そして、生きようと思うのであれば、遺された人々は「死を受け入れて生きる」しか方法はありません。でも、この場合は上手である必要はないとも思います。下手くそでも構わないと私は思います。

 

関連する作品 音楽と空気と飛行機

With the Beatles

帯の位置のせいで、3人組になっている。

ウィズ・ザ・ビートルズ

ウィズ・ザ・ビートルズ

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ノルウェイの森

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『空気サナギ』

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『飛行機』

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物語の統一性は常にプロットにある

”批評の第一原則は、「まず、(この本がわかった)と、ある程度、確実に言えること。そのうえで、賛成、反対、判断保留の態度を明らかにすること」である。”ー「本を読む本」P.150

”この本は全体として何に関するものなのか。その答えは、物語のプロットの統一性の中に見いだされる”ー「本を読む本」P.213

 

全力考察 文学の美点

”[設問・二度にわたる二人の出会いと会話は、彼らの人生をどのような要素を象徴的に示唆していたのでしょう?]”ーP.132

 知らねーよ、そんなもん。

”もちろん「比較的理にかなった解答」みたいなものは最大公約数的に存在するだろうが、文学において比較的理にかなっていることが果たして美点であるのかどうか、そこには疑問の余地がある”ーP.106

 少なくとも、私は自身の結論の根拠をプロットで示すことが考察だと信じています。第三者が私の考察を論理的に反論できる材料を提示することです。

 著者の作品は何かと問題もありますが、著者も作品もサンドバックではありません。叩くにしろ、称賛するにしろ、感想を言うにしろ、「全体として何であるか?どう読んだのか?」を告白する前に、細部について解説を始めるブログや批評家がいます。細部を語る前に全体の統一を示してほしいです。

 (著者がその作品の中で戦争を話題に持ち出したとしても、戦争を肯定している訳ではありません。アホか!)

 感想文なら構いません。しかし、著者が叩かれることを覚悟して世に出した作品を批評するなら、批評者も叩かれる覚悟と、叩きやすい材料を提示することが考察だと、私は信じています。(もちろん、これは私の感想です。)

 文学の美点という以前に、マナーの問題です。

 この短編の統一は「遺された人達の生き方」です。

 味のしなくなったガムを吐き捨てるような感想を書く読者には、「死を受け入れる生き方」は読めません。

まとめ 皆さんの青春の一曲は何ですか?

 私の青春期の曲ではないのですが、流行りの曲とは無縁に同じ曲ばかり繰り返し聞いていた時期がありました。

 流行歌が騒音に聞こえて、ウルフルズの「笑えれば」だけが頼りでした。この曲を泣きながら無限ループで聞いていました。こんなことをブログで書ける日が来るなんて、とても嬉しいです。

 歌って良いですよね♪


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