パスタを茹でている間に

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考察・村上春樹著『飛行機ーーあるいは彼はいかにして詩を読むようにひとりごとを言ったか』

 短編集「TVピープル」より、『飛行機ーーあるいは彼はいかにして詩を読むようにひとりごとを言ったか』を考察します。

 私は短編集の表題作となっている「TVピープル」については、「我々はテレビを通して、構造主義的に社会に取り込まれ、自分が思っているほど自由に考え行動できない」と考察しました。

 今回、短編「飛行機(Aeroplane)」では、飛行機を

(Aero)plane=平面、水準、平坦 と読んでいます。

 本短編は三人称で、登場人物の彼(20歳)と彼女(27歳、既婚者で子供もいる)の不倫関係にある二人が、彼が時々口にする「独り言」について語るお話です。

 

Aeroplane: Or, How He Talked to Himself as If Reciting Poetry

 

 

 

四段プロット あらすじの代わりに

  1.  彼は二十歳になったばかりだった。当時女は彼より七つ歳上で、結婚していて、子供までいた。彼女の夫は旅行会社に勤めていて、月の半分近くは家を留守にしていた。夫はオペラが好きで、レコードが作曲家別に整理されて並んでいた。彼はオペラという音楽がこの世界にあるということは知っていたが、実際にオペラ愛好家を身近に感じることは始めてだった。
  2.  情事のあと、彼と彼女はキッチンテーブルに向かい合って座り、彼女は彼の独り言について訊ねた。「あなた昔からひとりごとを言う癖があったの?」彼女はコーヒー・スプーンの柄をいじりつづけていた。彼は彼女のその指先をじっと眺めていると、意識が奇妙に平坦になった。彼はこれまでに何人かの女と付き合ったことがあったが、どうしてひとりひとりこうも違うのだろうと思った。そして、ひとりひとりの抱える傾向の差異に、意味深さを感じた。
  3.  「ひとりごと?」身に覚えがなかった彼は、驚いて彼女に聞き返した。彼女も子供の頃よくひとりごとを言っていたと語った。でも、母親にきつく叱られたせいで、「いつの間にか、言おうと思っても言えなくなった。」と続けた。彼女はコーヒー・スプーンをいじりながら、「人の心というのは、深い井戸のようだ。そこから浮かび上がってくる形を想像するしかない」と、自然に出てくる言葉のことを思った。彼は、今度ひとりごとを言っていたらメモっておいて欲しいと頼むと、彼女はすぐさまボールペンを手に取りメモ用紙に書き始めた。
  4.  彼女が何かを書き終わるのを待ちながら、彼は「複雑なシステムの一部が引きのばされて恐ろしく単純になってしまったかのような奇妙な欠落感」に襲われた。「あなたの心は森の奥で飛行機のことを考えていたのよ」「あるいはどこか森の奥の方で飛行機をつくっていたのかもね」

” 飛行機

 飛行機が飛んで

 僕は、飛行機に

 飛行機は

 飛んで

 だけど、飛んだとしても

 飛行機が

 空か”ーP.70

 

問題の抽出 (Aero)plane 平坦化される世界

 「飛行機のひとりごと」の意味が分からないと、読み解けないのでは?と尻込みしますが、この詩には意味なんてありません。これは著者がわざと分かりにくくしているだけなので、私はこれを無視します。

 プロットに書き直す際に、私の方でかなり大胆に物語のムード(空気感)を変えてしまいました。考察用なのであしからず。

 

飛行機(Aeroplane)の意味

 短編「TVピープル」でも、TVピープル達が飛行機を作っている場面があります。こちらも「平面的で、抑揚のない声」だったり、「平板でリアリティーがない。」と平坦さを強調しています。

 アメリカ英語ではairplane、 イギリス英語ではaeroplane なのですが、両方とも略されてplane が一般的です。そして本短編でも、「平坦」が主題となっています。

 air・aero を空気と読み、「空気さなぎ」と同じく「ムード(雰囲気)」とすることも出来ますが、本作では空気は無関係だと思いましたので切り捨てました。

 ”意識が奇妙に平坦になった”ーP.56

 ”ひらべったい暗示的な月”ーP.60

 

 著者の言葉遊びを考察の根拠とするのは弱いのですが、言葉遊びを諦めても、本短編では「平坦」がテーマになっています。オペラ愛好家や彼の女性遍歴(元カノ達)も、「平坦化されていないひとりひとりの差異」だったり、「井戸」と「独り言の矯正」も抑圧されてしまった自我を言っています。   

 

関連する作品 平坦な世界

TVピープル」 構造主義

while-boiling-pasta.hatenablog.com

 

「空気さなぎ」 空気=ムード

while-boiling-pasta.hatenablog.com

 

 

芸術家:村上隆スーパーフラット(Superflat)」

 同じ村上繋がりで、芸術家の村上隆さんのスーパーフラット(Superflat)と合わせて考察してみようとも思ったのですが、あまり関係がなさそうなのでやめました。

全力考察 心の森の奥で平面を作る

 今回のプロットは、原文の持っているムードを壊してしまいましたが、ポイントをしっかり押さえられたので良い出来だったと自分では思っています。自画自賛です。

 なので、改めて考察するまででもないのですが、なぜ不倫なのか?二人の設定について著者の構想がいまいち掴めていない部分もあります。

 

”要するに彼女は、彼にとっては月の裏側みたいなものだったわけだ。

彼女の夫は海外旅行を専門にする旅行会社に勤めていた。そのせいで月の半分近くは家を留守にしていた。”ーP.57

 

 「月の裏側(半分)」から、彼女が彼にとって遠い存在、未知の部分、見えない部分あるいは、夫と子供を持つ主婦としての表の部分に対して、裏側を彼が担当したとも考えられます。

 

まとめ 考察はこじつけです

”テーブルの上でコーヒーは濁りつづけ、冷めつづけた。地軸が回転し、月が密やかに重力を変化させ潮を作った。沈黙の中で時間が流れ、線路の上を電車が通過していった。”ーP.71

 

 全体的にこんなムードを持った物語なのですが、私が考察すると味もそっけもありません。さらに細かいことを言うと、地軸は地球が自転する際の自転軸なので回転はしません。地球が地軸を中心に回っています。