パスタを茹でている間に

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考察・村上春樹著『夜中の汽笛について、あるいは物語の効用について』

 短編集『夜のくもざる』に収録された短編です。短編と言うよりはショートショートに分類されるぐらいのとても短いお話です。こちらの短編集は、ほとんどが意味不明でふざけた?内容のショートショートばかりなのですが、『夜中の汽笛~』だけがトーンが違います。

 『~物語の効用について』となっていますので、著者が物語に求めているモノが何であるか?分かりやすく書かれています。

 

四段プロット あらすじの代わりに

  1.  女の子が男の子に質問する。「あなたはどれくらい私のことを好き?」少年はしばらく考えてから、静かな声で、「夜中の汽笛くらい」と答える。少女は黙って話の続きを待つ。
  2.  「あるとき、夜中にふと目が覚める」と彼は話し始める。僕はまったくのひとりぼっちで、あたりは真っ暗で、なにも聞こえない。自分が誰からも、どこからも、遠く隔てられていることを感じる。自分が誰からも愛されず、忘れられた存在になっていることが分かる。「それはまるで厚い鉄の箱に詰められて、深い海の底に沈められたような気持ちなんだよ。」と少年は語る。
  3.  「それはおそらく人間が生きている中で経験するいちばん辛いことのひとつなんだ。死んでしまいたいくらいに悲しくて辛い気持ちだ。」少年は続ける。そのまま放っておいても、箱の中の空気が薄くなって実際に死んでしまうはずだ。それは喩えなんかじゃない。でもそのときずっと遠くで汽笛の音が微かに聞こえる。「暗闇の中でじっと耳を澄まし、もう一度、汽笛を耳にする。僕の心臓は痛むことをやめ、時間が流れを取り戻し、鉄の箱は海面に浮かび上がる。」
  4.  「そして僕はその汽笛と同じくらい君のことを愛している」 そこで少年の短い物語は終わる。今度は少女が自分の物語を語り始める。

問題の抽出 物語の効用について

 様々な作品で登場する「海に沈む鉄の箱」です。「村上春樹が嫌いな人」は、この短編が嫌いなはずです。著者が物語に求めているものはこの「夜中の汽笛」だからです。

 「ふん。そんなセンチメンタルな。そもそも答えになっていない。」と鼻で笑って通りすぎることが出来る幸運な人は、村上春樹作品が不要な人たちです。そのまま人生を謳歌すればいいと思います。

 少女の問いは、単に「きっかけ」としてあり、そして私たちの決断も常に「きっかけ」を必要としています。 

 

関連する作品 「海に沈む鉄の箱」 

 

 

 「蜂蜜パイ」

 

 

 「めくらやなぎと、眠る女」

 

 

 

 井戸 など

 

  他にもありますが、思い付かなかったので、そのうち追記します。

   

全力考察 世界は「きっかけ」で溢れている

 特に考察の必要もないぐらいです。また、この「きっかけ」は私たちの身の周りに溢れていて、その多くの「きっかけ」を「私たちは無視している」とするのが、著者の考えです。 

 

2023年3月追記 現代文の効用について

 高校の現代文で紹介されているようです。困っている学生が多いようなので追記します。

 かなり強引に簡略化すると、

 

「海に沈む箱」 = 著者の感じているこの世界の生き辛さ

「夜中の汽笛」 = 著者を孤独から解放する淡い希望

「女の子」   = 著者の目の前にある確かな希望

「物語の効用」 = 不確かな世界で生き延びる方法

 

 「あるいは」で、「女の子」=「物語の効用」が同義になっています。著者が追い求める物語とは何なのか?著者の創作の源泉となっている孤独と、その生き辛さを解消すべくどのような物語を創作しているのか?著者の定義する物語に求めるものが書かれています。

 「どのくらい好き?」という質問から、恋愛観に関する物語だと読んでしまう人もいるかもしれません。しかし、重要となっているのは物語の交換と、価値観の共有です。女の子の質問は、男の子が物語るためのきっかけとして必要で、男の子の打ち明けた物語がきっかけとなり、女の子の物語りが始まります。

 

 学生時代は「こんな勉強(現代文)が将来どんな役に立つだろう?」と疑問に感じることもあるかもしれません。また、多様化する価値観の中で、自分の中に芯のようなものを探し当てることができず、思い悩むことだってあるかもしれません。

 しかし、あなた達の好きなこと・挑戦していること・一緒に苦楽を共にしてくれる人たちが、「あなた」です。

 「自分の好きなもの」で「あなた」を語りましょう。「あなた」は、あなたの好きなものだけで作られています。

まとめ 

 「めくらやなぎと、眠る女」の考察をしていたのですが、こちらの短編を事前に扱っていた方がやりやすいと思ったので、記事にしてみました。

 

while-boiling-pasta.hatenablog.com

 

 

 学校の授業で使われている「バースデイ・ガール」も考察しています。

while-boiling-pasta.hatenablog.com