パスタを茹でている間に

村上春樹作品を考察しているブログです。著者の著作一覧はホーム(サイトマップ)をご確認ください。過去の考察記事一覧もホーム(サイトマップ)をご確認ください♪

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考察・村上春樹著『謝肉祭(Carnaval)』ヴィーナスの醜さ

今回は「一人称単数」より『謝肉祭(Carnaval)』を考察します。この短編では、主人公の友人としてF*氏という40歳代の女性が登場します。彼女は「とても醜い女性」で、最後には詐欺事件の犯人として逮捕されます。ネットでは「モデルは誰か?」と犯人捜しが行われて…

考察・村上春樹著『イエスタデイ』 歌詞の改作

短編集「女のいない男たち」より『イエスタデイ』を考察します。 こちらの短編は、主人公である語り手(谷村)の友人である木樽の恋愛事情がメインのストーリーです。 木樽は生まれも育ちも東京なのに、関西弁を習得したり、ビートルズの「イエスタデイ」を関西弁…

考察・村上春樹著『ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles』ビートルズと自殺者達

短編集「一人称単数」より、『ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles』を考察します。簡単に言うと、この短編はかなり危険な作品です。 ”そう、1960年代の後半には、思想の行き詰まりから人が自らの命を絶つこともあったのだ。”ーP.93 ”そう、ビートルズの…

考察・村上春樹著『ハナレイ・ベイ』自然はしばしば人の命を奪う

今回は村上春樹著、短編集「東京奇譚集」より、『ハナレイ・ベイ』を考察します。こちらは吉田羊さんの主演で映画化された作品です。映画のほうはだいぶ前に見たのでうろ覚えですが、ハワイの素敵な映像と、なんと言っても吉田羊さんの素晴らしい演技が印象に…

考察・村上春樹著『「ヤクルト・スワローズ詩集」』すみません。黒ビールです。

短編集「一人称単数」より、『「ヤクルト・スワローズ詩集」』を考察します。こちらの本はエッセイ形式で語られているのですが、私は基本的にフィクション(創作)として読んでいます。 本作でも、著者は小説家としてデビューして間もないころ、「ヤクルト・スワロ…

考察・村上春樹著『石のまくらに』 生き延びた短歌と言葉

短編集「一人称単数」より、『石のまくらに』を考察します。「一人称単数」は既に何編か考察していますが、テーマとなっているのは「わたしとは誰か?」だと思って読んでいます。本作では「創作物とは何であるか?」著者が創作に臨む態度が正直に語られています。 著…

考察・村上春樹著『クリーム』② クレム・ド・ラ・クレム

村上春樹著、短編集「一人称単数」より『クリーム』を考察します。こちらの短編は個人的にとても面白く感じましたので、記事を二つに分けて考察しています。 前回の記事では「中心がいくつもあり、外周を持たない円」について考察しました。そして、今回は物語の…

考察・村上春樹著『クリーム』① 中心がいくつもあって外周を持たない円

短編集「一人称単数」より『クリーム』を考察します。こちらの短編は面白かったので2回に分けて考察します。 物語全体の考察は次回の記事でします。まず、この物語で読者の疑問となるのは「中心がいくつもあって外周を持たない円」です。本記事ではこの円につい…

考察・村上春樹著『品川猿の告白』 名前を盗む猿

短編集「一人称単数」より、『品川猿の告白』を考察します。 こちらの短編集はエッセイのような文体で、主人公も著者自身と思われるような語り口で物語が進んでいきます。しかし、明らかに現実では起こり得ない展開が待っていますので、現実(エッセイ)と非現実…

考察・村上春樹著『品川猿』 猿よりも劣る

短編集「東京奇譚集」より、『品川猿』を考察します。先日文庫化された短編集「一人称単数」に、「品川猿の告白」という後日譚が収録されていました。そこで今回は、順番に一作目の『品川猿』について考察したいと思います。 東京奇譚集(新潮文庫) 作者:村上春樹…

考察・村上春樹著『一人称単数』 「わたし」とは誰か?

短編集「一人称単数」が文庫化されました。今回は表題作『一人称単数』を考察します。 一人称単数とは、私・あたし・オレ・自分など自分自身を指し示す言葉です。一人称複数になると、私たち・我々など自分を含めた複数を指し示します。「あなた」が二人称で、三…

考察・村上春樹著『パン屋再襲撃』 ワーグナーの呪い

村上春樹著、短編集「パン屋再襲撃」より表題作の『パン屋再襲撃』を考察します。 主人公は学生時代に金欠で食べるものにも困ったときに、当時の相棒(パートナー)と共にパン屋を襲撃した過去があります。十年後、主人公は就職・結婚して、まともな社会人になっ…

考察・村上春樹著『野球場』人間の行為を決定する主体

短編集「回転木馬のデッド・ヒート」より、短編『野球場』を考察します。小説家としてデビューした著者の元には、小説家志望の人たちが勝手に原稿を送りつける事が多かったようです。普段は取り合わないそうですが、今回は著者の好奇心から物語が発展します。 …

考察・村上春樹著『飛行機ーーあるいは彼はいかにして詩を読むようにひとりごとを言ったか』

短編集「TVピープル」より、『飛行機ーーあるいは彼はいかにして詩を読むようにひとりごとを言ったか』を考察します。 私は短編集の表題作となっている「TVピープル」については、「我々はテレビを通して、構造主義的に社会に取り込まれ、自分が思っているほど自由…

考察・村上春樹著『タクシーに乗った男』カロ・タクシージ(良い旅を)

短編集「回転木馬のデッド・ヒート」より、『タクシーに乗った男』を考察します。記事にするために再読していたのですが、この短編はかなり面白い作品であることを再発見しました。 著者は、まだ作家になったばかりのころ、ペンネームを使って美術誌のために画…

考察・村上春樹著『レーダーホーゼン』離婚原因は半ズボン

短編集「回転木馬のデッド・ヒート」より「レーダーホーゼン」を考察します。レーダーホーゼンとは、ドイツ伝統の吊りベルト式の半ズボンです。 ざっくりとしたお話の流れは、著者が著者の奥さんの友人(30歳過ぎの独身女性)の、「半ズボンが原因で、母が父を捨て…

村上春樹作品とLGBTQ+

村上春樹作品では、性的マイノリティのキャラクター達が何人も登場しています。今回は村上春樹作品で活躍した彼・彼女たちについてご紹介します。 最近ではSDGsの目標としても話題に挙がることも多いLGBTQ+ですが、著者の作品ではかなり以前から、当たり前の…

考察・村上春樹著『緑色の獣』 正体不明の獣

短編集「レキシントンの幽霊」より、『緑色の獣』を考察します。英訳タイトルが「The Little Green Monster」となっています。本短編を考察することが、一体誰の特になるのか?需要があるのか分かりませんが、ネタ切れなので記事にしてみました。 レキシントンの…

考察・村上春樹著『中国行きのスロウ・ボート』そして誇りを持ちなさい

短編集「中国行きのスロウ・ボート」より、表題作の『中国行きのスロウ・ボート』を考察します。著者にとって初の短編集の表題作となっています。短編ながらも全5章からなり、何が言いたいのか?さっぱり分からない作品です。ジャズに「slow boat to China」とい…

考察・村上春樹著『独立器官』本人の意思と他律的な作用

短編集「女のいない男たち」より、『独立器官』を考察します。ざっくりとあらすじを説明すると、50歳を過ぎても独身を貫く美容整形外科の開業医をしている男性・渡会が、恋煩いで拒食症になりそのまま絶命するお話です。 短編集に収められた順番からすると、「…

考察・村上春樹著『UFOが釧路に降りる』箱の中身

短編集「神の子どもたちはみな踊る」より、『UFOが釧路に降りる』を考察します。こちらの短編集は阪神淡路大震災を扱った作品とされているのですが、地震のあとで地下鉄サリン事件が起きています。 同短編集は連作「地震のあとで」が元となっていることから、本…

考察・村上春樹著『ドライブ・マイ・カー』 演じる生き方

村上春樹著『ドライブ・マイ・カー』を考察します。短編集「女のいない男たち」に収録されている短編ですが、映像化作品がいくつもの賞を受賞しているそうです。私は未視聴なのですがネットから得た情報によると、原作とは違う部分があったり、同短編集に収め…

考察・村上春樹著『タイランド』 石に変わる言葉

短編集「神の子どもたちはみな踊る」より『タイランド』を考察します。主人公のさつきは甲状腺の病理医で、世界甲状腺会議なる専門医が集まる会議に招かれており、今回の会場となったのがタイだったので、物語の舞台がタイになっています。 こちらの短編集は阪…

考察・村上春樹著『神の子どもたちはみな踊る』かえるダンスの意味

今回は短編集「神の子どもたちはみな踊る」より、表題作『神の子どもたちはみな踊る』を考察します。日本では今、「政治とカルト教団」に揺れていますが、こちらの短編でもカルトを扱った作品になっています。 神の子どもたちはみな踊る(新潮文庫) 作者:村上春…

考察・村上春樹著『TVピープル』 テレビは真実を伝えているか?

村上春樹著『TVピープル』を考察します。本作は短編集「TVピープル」の表題作となっていて、短編集の持っている全体的なムードを示す作品となっています。小説『1Q84』に登場した「リトルピープル」へと続く邪悪な系譜なのですが、こちらを「邪悪」としてしまうの…

考察・村上春樹著『どこであれそれが見つかりそうな場所で』

短編集「東京奇譚集」より、「どこであれそれが見つかりそうな場所で」を考察します。なかなか惹かれるタイトルです。主人公は45歳の独身で、特殊な状況で失踪してしまった人を専門に探すボランティアをしています。そんな主人公のもとに依頼人が訪れるところか…

考察・村上春樹著『蜂蜜パイ』 地震男がふたを開く

今回は短編集「神の子どもたちはみな踊る」より『蜂蜜パイ』を考察します。こちらの作品は『かえるくん、東京を救う』と並んで、とても人気のある短編で、ストレートで分かりやすい物語になっています。 主人公は短編『日々移動する腎臓のかたちをした石』で登…

考察・村上春樹著『女のいない男たち』水夫は風を捉えて進む

短編集『女のいない男たち』の表題作を考察します。まえがきでは「女のいない男たち」というモチーフで短編をいくつか書いたあとで、単行本のための表題作を書こうと思い立ったと語っています。また本作については、「そうだ、こういうものを書こう」という着想…

考察・村上春樹著『木野』 ザグレウスの心臓 全力考察

短編集「女のいない男たち」より、『木野』を考察します。以前にも『木野』は記事にしたのですが、そのときは考察が中途半端になってしまいましたので、リトライしたいと思います。猫と柳、そして、「心臓を隠す蛇」についても考察したいと思います。 ポスター …

考察・村上春樹著『シェエラザード』 やつめうなぎ的な主題

短編集「女のいない男たち」より、『シェエラザード』を考察します。社会との関わりを絶って「ハウス」で隠遁生活を送る男性・羽原と、その彼を支援する「連絡係」の女性・シェエラザードの物語です。 シェエラザード (HARUKI MURAKAMI 9 STORIES) スイッチパブリ…