パスタを茹でている間に

・村上春樹作品について、偏見たっぷりに独自の読み方で考察しているブログです。・基本的に「テーマは何か?」の結論から書き始めますので、ネタバレです。・ただし、未読の方に対する配慮として、あらすじは省略しています。・断定的な表現で文章に不快感を持たれる方もいらっしゃると思いますが、「言いきる」ことを目標にしています。・ご了承ください♪

考察・村上春樹著『トニー滝谷』 中身の不在を補う

短編集「レキシントンの幽霊」より、『トニー滝谷』を考察します。不思議なタイトルの本作ですが、映像化もされている作品です。

 生まれてすぐに孤独な少年時代を過ごし、最愛の人とめぐり逢うも、再び孤独になることから、「孤独、深い愛、喪失」をテーマとした読み方が主流となっている作品です。

 

 長い文章になってしまいましたので、BGMにどうぞ♪音楽を担当したのは坂本龍一教授です♪


www.youtube.com

四段プロット あらすじの代わりに

  1.  主人公トニー滝谷の父・滝谷省三郎はジャズ・トロンボーン奏者だった。彼は戦争とは無縁で、日中戦争から真珠湾攻撃、そして原爆までの時代を、上海のナイトクラブで気楽にジャズを演奏して過ごした。人当たりの良い性格で友人が多かった。その友人の中には、正体不明な方法で戦争から莫大な利益を産み出している連中もいた。
  2.  敗戦後、省三郎は胡散臭い連中との交遊に目をつけられて、刑務所に入れられるが、運良く釈放され、昭和21年に日本へ帰国した。その後はジャズバンドを結成し、米軍基地をめぐり、ジャズ好きな米軍少佐と仲良くなった。22年には遠縁の親戚の娘と結婚し、子供をもうけたが、母親は出産後に死んでしまった。米軍少佐は省三郎を励まし、子供に自分のファーストネームをつけるように提案した。子供は純粋な日本人であるにも関わらず、トニー滝谷という名前になった。
  3.  少年トニーは名前のせいでからかわれ、父親は演奏旅行で居ないし母親は死んでいたので、孤独な少年時代を過ごした。高卒後、美大に入った彼は、写実的でメカニカルな絵を描き続けた。当時の同級生は「権威や体制」に反抗していた時代だったので、トニーの描く無思想な絵は評価されなかった。しかし、大学を卒業すると彼の描く現実的で写実的で実際的な絵は好評となり、イラストレーターとして成功し、財を成した。そしてある日、出版社にアルバイトに来ていた「自然で優美に洋服を着こなす女性」に恋におちた。
  4.  程なく二人は結婚した。結婚生活に影を落とすようなものはひとつもなかったが、ただ一点トニーは、妻が衣服を買いすぎることだけを憂慮した。衣装室を埋め尽くすほどの大量の衣服に、お金の心配はなかったが、病的な「買い物依存」に対し忠告をした。妻は新品の洋服をブティックへ返品しに行った帰りに、交通事故に遭い死亡した。トニーは妻を亡くした喪失感から、女性アシスタントを募集し、事務所で働いている間、その事務員に亡き妻の服を着てもらうことを考えた。

問題の抽出 タイトルがナゼ『トニー滝谷』なのか?

 今回もエンディングは省略してあります。

 前回の記事では考察に失敗してしまいました。でも今回はかなり自信があります。この物語の統一を読むには、

  • ナゼ、父親はジャズ奏者なのか?
  • ナゼ、トニーはイラストレーターなのか?
  • ナゼ、妻は買い物依存なのか?
  • そしてナゼ、タイトルが『トニー滝谷』なのか?

これらのナゼ?に答える主題を見つけなければなりません。

関連する作品 中心を欠く

騎士団長殺し』では、別れた女性の衣服を大切に保管する免色氏が登場します。他の作品でも、女性の脱ぎ捨てた「スリップ」に異常に執着する主人公もいます。これらは「ドーナツ」と同じ意味で用いられている象徴です。

 

 

 

 

全力考察 アメリカ化した日本

 まず、トニーの父親は、自身では戦争に参加しなかったものの、常に戦争から恩恵を受けていた人物です。そして、その子供がトニーです。トニーは純粋な日本人であるにも関わらず、アメリカ人のような名前を持ちます。

 時代が進み、周りが「体制打破」を叫んでいるようなときも、トニーはメカニカルで写実的な絵でリアルを追求します。彼が無思想に現実と向き合うと、仕事は好調で財を成します。一方妻は、消費社会に取り込まれ、自分にはもうこれ以上必要がないと分かっていながらも、買い物中毒になっています。

 そして、トニーは妻(中身)の不在に対して、他人に服(外側)を着てもらうことを考えるお話です。

 つまり、戦後の日本そのものです。

まとめ 日本人が手に入れたもの

 主流となっている読み方では、父親の半生は不要だし、トニーはある程度の金持ちであればイラストレーターである必要もありません。近代化とアメリカ化を推し進め、不要なモノまで買うことで消費経済を回し、中身を失ってしまったことが本作の主題です。(もちろんこれは私個人の偏見に満ちた読み方で、こじつけです。)

 考察を始めたときは、「買い物中毒」と「資本主義」を結びつける読み方は、ネットではあまり見つかりませんでした。でも、はてなブログ内で私と近い感想を持たれた方を発見し、勇気をもらってなんとか形になりました。

 「銀座のクラブで演奏されるお上品なジャズ」なんてのもありました。

 

興味を持って頂けましたら、もう一本動画をどうぞ。宮沢りえさんの演技がスゴイです。


www.youtube.com