村上春樹著『風の歌を聴け』を考察します。皆さんは都市伝説はお好きでしょうか?今回は都市伝説風に、怪しい読み方を示してみたいと思います。前回は純粋にプロットから「風の意味」について考えてみましたが、今回はキーワード群を「Happy Birthday and White Christmas」からイエス・キリストに結びつける読み方をして、主題を導きだします。
Happy Birthday and White Christmas Hear the Wind Sing
- 「風の意味」を答える読み方
- 「ジョン・F・ケネディ」 に答える危険な読み方
- イエス・キリストでまとまるキーワード群
- パラレルな二つの主題 関連を持たないプロットとキーワード
- 全力考察 二つの主題を結びつける 地の塩
- 2023年3月追記 まとめ
「風の意味」を答える読み方
こちらが前回の記事です。
while-boiling-pasta.hatenablog.com
「ジョン・F・ケネディ」 に答える危険な読み方
本作で使われた固有名詞・キーワードを赤色で
私が補足的に挿入した言葉を青色で
一般的に知られている内容を黒色で 表示します
殉教者を鍵に次の扉を開ける
- ブラッディマリー
- Three Blind Mice ジャズ オックスフォード殉教者
- MIC・KEY・MOUSE
- ねずみの前足は4本指
- My Favorite Martian マーティンおじさん
- マルティン・ルター プロテスタント コラール
- California Girls Jesu, Joy of Man's Desiring
- 『ジャン・クリストフ』を気に入っていて、そこに「宇宙の観念」と「不毛さ」を見た。クリストフォルス(キリストを運ぶ・担うもの)は正教会・ルーテル教会などでは聖人
- 『再び十字架にかけられたキリスト』キリストが復活しても、再び支配階級が磔にする。
- ジーン・セバーグ『聖女ジャンヌ・ダーク』でデビュー
- ジャンヌ・ダルク 1431年魔女 1456年殉教者 1909年列福 1920年列聖
- JFK 唯一のアイルランド系カトリック(バイデンは2人目)
- ベトナム戦争 ナパーム、クラスター、枯葉剤
- Michael アイルランド人,ローマカトリック教徒
- 脊椎の神経(脊髄)の病気のひとつにケネディー症
- 小説全体にケネディが広く行き渡っている
- 25章 四等分のホットケーキ 十字シンボルのみはプロテスタント 丸に十字はグノーシス
- the wind 管楽器 = 火星人
- 地の塩 ローリング・ストーンズ
- YWCA プロテスタント
イエス・キリストでまとまるキーワード群
読めましたでしょうか?こちらの読み方は一度も本作を読んだことのない人でも、キーワードを組み合わせることで主題とメッセージを得ることができます。ですが、私はこの読み方が嫌いなので、補足しながらも分かりづらくしています。論理の飛躍(こじつけ)もありますが、意図的に省いている箇所もあります。
読書を進めていく際に、「本書の主題はなにか?」を問いながら、プロット(論理の展開)を探していくのですが、その前段階で「本書は何に関する本か?」という問いを、キーワード群から導きだします。機械的に自分で注釈を書き込む作業です。
固有名詞を多用すると、当時の時代背景を言葉で説明する必要がなくなるので便利です。しかし、乱用すると読者に誤読されてしまうリスクがあります。くどいようですが、私はこの読み方が嫌いなので、もう一度バラバラにして違う読み方を探したのですが、かなり強固に結びついてしまいました。著者の意図したところではなかったとしても、そのような可能性を残してしまったのは著者の責任です。
(「朝敵を打ち倒した後でその荒魂を丁重に奉り、強大さを保ったままベクトルを180度変換し、国の発展の礎とする」なんて国もあります。この場合は祟りを恐れているからなのですが。)
パラレルな二つの主題 関連を持たないプロットとキーワード
プロットから得られる主題
自らを「無意味な風」に貶めるのではなく、風の中に意味を見いだす。
キーワード群から得られる主題
このように、ダブルミーニングになっています。
通常、作中に登場する固有名詞・専門用語・キーワードは、著者の意図を補足するために置かれます。そして、本来はストーリーに沿うものなのですが、キーワードが物語の展開とは無関係に独立してキーワード群を形成しているために、物語を理解するためのヒントになりません。
キーワードを無視しても、ストーリーの展開から主人公の抱えてしまった空虚感を読めますが、「何か秘密が隠されている筈だ!」と深読みさせる所に著者の仕掛けがあると思います。デコイも散りばめてありますが、本作の応募時のタイトルを考えればエピソードとキーワード群を結び付けているのはキリストです。
全力考察 二つの主題を結びつける 地の塩
この二つの主題を結びつけるキーワードとして「地の塩」がもう一度浮かび上がります。
誰もが「当たり前」として特に疑問を抱かない事柄であっても、風をやり過ごすような態度で諦めず、社会の腐敗を食い止めるべく「地の塩」として、風に流されることなく、風を描きたい。
と、こんな著者の決意が読めます。構造主義です。
私たちの身の回りにある「当たり前」「普通」は誰かの用意したものです。
波風を立てずに普通にありたいと思えば、そのまま吹かれるままに流されれば良いのですが、「普通」の枠組にはめ込んでしまった自分は、一体どこまでが自分なのでしょうか?
その時、私は風に煽られているのでしょうか?それとも風の一部でしょうか?
以前、『ダンス・ダンス・ダンス』の考察で構造主義について触れました。こちらもどうぞ。
while-boiling-pasta.hatenablog.com
2023年3月追記 まとめ
多くの方がリンクからこの記事を読みに来てくれているようです。ありがとうございます。読み直すとあまりにも不親切に感じましたので、少しだけ追記します。
[イエス・キリストでまとまるキーワード群]ですが、どのようにキーワードを変換するかというと、各キーワードからキリストに関係のある要素だけを抽出する方法をとります。
ブラッディ・マリー(カクテル) × キリスト
= 血まみれメアリー(16世紀のイングランド女王)
ジーン・セバーグ(女優) × キリスト
= ジャンヌ・ダルク(魔女として処刑される)
メアリー1世もジャンヌ・ダルクも殉教者と関わりの深い人物です。そもそも、ローマ帝国はキリストを処刑したあとで、キリスト教を国教として利用し、ヒエラルキーを構築し民衆を支配しています。
また、Wind orchestra(ウインド・オーケストラ)が吹奏楽の形態を言うように、wind(風)は管楽器を表します。ジャズ好きな著者ですので、そのまま管楽器として読んでもよいのですが、同様にキーワードを抽出することが出来ます。
(wind)管楽器 × キリスト
他にも、ビーチ・ボーイズの「カリフォルニア・ガールズ」がありますが、こちらからもキリストに関する要素を抜き出すことが出来ます。
カルフォルニア・ガールズ × キリスト
= バッハ「主よ、人の望みの喜びを」
こじつけに思われるかもしれませんが、誰がやっても同じ結果になります。
同様に、ケネディからキリストに関する要素を抽出することが出来ます。が、作品全体をどのように読むのかは一人ひとりの読者の自由です。
ブログ村の「村上春樹あれこれ」というテーマに参加しています。私は映画情報や新作など新しいニュースに疎いですが、他のメンバーの方達の村上春樹情報がまとまっています。↓