パスタを茹でている間に

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考察・風の歌を聴け ②「ジョン・F・ケネディ」に答える読み方

村上春樹著『風の歌を聴け』を考察します。皆さんは都市伝説はお好きでしょうか?今回は都市伝説風に、怪しい読み方を示してみたいと思います。前回は純粋にプロットから「風の意味」について考えてみましたが、今回はキーワード群を「Happy Birthday and White Christmas」からイエス・キリストに結びつける読み方をして、主題を導きだします。

 

Happy Birthday and White Christmas Hear the Wind Sing

 

 

「風の意味」を答える読み方

こちらが前回の記事です。

 

while-boiling-pasta.hatenablog.com

 

ジョン・F・ケネディ」 に答える危険な読み方

本作で使われた固有名詞・キーワードを赤色

私が補足的に挿入した言葉を青色

一般的に知られている内容を黒色で 表示します

 

殉教者を鍵に次の扉を開ける

イエス・キリストでまとまるキーワード群

読めましたでしょうか?こちらの読み方は一度も本作を読んだことのない人でも、キーワードを組み合わせることで主題とメッセージを得ることができます。ですが、私はこの読み方が嫌いなので、補足しながらも分かりづらくしています。論理の飛躍(こじつけ)もありますが、意図的に省いている箇所もあります。

読書を進めていく際に、「本書の主題はなにか?」を問いながら、プロット(論理の展開)を探していくのですが、その前段階で「本書は何に関する本か?」という問いを、キーワード群から導きだします。機械的に自分で注釈を書き込む作業です。

固有名詞を多用すると、当時の時代背景を言葉で説明する必要がなくなるので便利です。しかし、乱用すると読者に誤読されてしまうリスクがあります。くどいようですが、私はこの読み方が嫌いなので、もう一度バラバラにして違う読み方を探したのですが、かなり強固に結びついてしまいました。著者の意図したところではなかったとしても、そのような可能性を残してしまったのは著者の責任です。

(「朝敵を打ち倒した後でその荒魂を丁重に奉り、強大さを保ったままベクトルを180度変換し、国の発展の礎とする」なんて国もあります。この場合は祟りを恐れているからなのですが。)

 

パラレルな二つの主題 関連を持たないプロットとキーワード

プロットから得られる主題

 自らを「無意味な風」に貶めるのではなく、風の中に意味を見いだす。

キーワード群から得られる主題

 マッチポンプ

 

このように、ダブルミーニングになっています。

通常、作中に登場する固有名詞・専門用語・キーワードは、著者の意図を補足するために置かれます。そして、本来はストーリーに沿うものなのですが、キーワードが物語の展開とは無関係に独立してキーワード群を形成しているために、物語を理解するためのヒントになりません。

キーワードを無視しても、ストーリーの展開から主人公の抱えてしまった空虚感を読めますが、「何か秘密が隠されている筈だ!」と深読みさせる所に著者の仕掛けがあると思います。デコイも散りばめてありますが、本作の応募時のタイトルを考えればエピソードとキーワード群を結び付けているのはキリストです。

 

全力考察 二つの主題を結びつける 地の塩

この二つの主題を結びつけるキーワードとして「地の塩」がもう一度浮かび上がります。

 

誰もが「当たり前」として特に疑問を抱かない事柄であっても、風をやり過ごすような態度で諦めず、社会の腐敗を食い止めるべく「地の塩」として、風に流されることなく、風を描きたい。

 

と、こんな著者の決意が読めます。構造主義です。

私たちの身の回りにある「当たり前」「普通」は誰かの用意したものです。

波風を立てずに普通にありたいと思えば、そのまま吹かれるままに流されれば良いのですが、「普通」の枠組にはめ込んでしまった自分は、一体どこまでが自分なのでしょうか?

その時、私は風に煽られているのでしょうか?それとも風の一部でしょうか?

 

以前、『ダンス・ダンス・ダンス』の考察で構造主義について触れました。こちらもどうぞ。

 

while-boiling-pasta.hatenablog.com

 

2023年3月追記 まとめ 

 多くの方がリンクからこの記事を読みに来てくれているようです。ありがとうございます。読み直すとあまりにも不親切に感じましたので、少しだけ追記します。

 [イエス・キリストでまとまるキーワード群]ですが、どのようにキーワードを変換するかというと、各キーワードからキリストに関係のある要素だけを抽出する方法をとります。

 

 ブラッディ・マリー(カクテル) × キリスト

   = 血まみれメアリー(16世紀のイングランド女王)

 

 ジーン・セバーグ(女優) × キリスト

   = ジャンヌ・ダルク(魔女として処刑される)

 

 メアリー1世もジャンヌ・ダルクも殉教者と関わりの深い人物です。そもそも、ローマ帝国はキリストを処刑したあとで、キリスト教を国教として利用し、ヒエラルキーを構築し民衆を支配しています。

 また、Wind orchestra(ウインド・オーケストラ)が吹奏楽の形態を言うように、wind(風)は管楽器を表します。ジャズ好きな著者ですので、そのまま管楽器として読んでもよいのですが、同様にキーワードを抽出することが出来ます。

 

 (wind)管楽器 × キリスト

   = オルガン、マルティン・ルターJ.S.バッハなど

 

 他にも、ビーチ・ボーイズの「カリフォルニア・ガールズ」がありますが、こちらからもキリストに関する要素を抜き出すことが出来ます。

 

 カルフォルニア・ガールズ × キリスト

   = バッハ「主よ、人の望みの喜びを」

 

 こじつけに思われるかもしれませんが、誰がやっても同じ結果になります。

 同様に、ケネディからキリストに関する要素を抽出することが出来ます。が、作品全体をどのように読むのかは一人ひとりの読者の自由です。 

 

ブログ村の「村上春樹あれこれ」というテーマに参加しています。私は映画情報や新作など新しいニュースに疎いですが、他のメンバーの方達の村上春樹情報がまとまっています。↓

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