パスタを茹でている間に

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考察・『七番目の男』 初めての読む「村上春樹」に最適な短編

 短編集「レキシントンの幽霊」より、『七番目の男』を考察します。こちらの作品は村上春樹作品のなかでも特に読みやすく・分かりやすいとされている短編です。メッセージもかなりストレートで、「著者が小説で描きたいこと」が端的に現れています。

 語り手(主人公)は”部屋の中に丸く輪になって座った人々”の七番目に語り始めた人物で、グループ・セラピーか?怪談話か?恐怖体験?を交互に披露する場の、最後の発表者です。

 

 

9段プロット あらすじの代わりに

  1.  (主人公)語り手は50代の半ばの痩せた男で、「その波が私をとらえようとしたのは、私が十歳の年の、九月の午後のことでした。」と静かな声で切り出した。語り手は自分の目の前で、一学年下の親友Kが、台風によって生じた高波にさらわれてしまった恐怖体験を語った。Kは言葉に障害があって、そのせいで学校の成績もいまいちだったが、絵を描くのが上手い心の優しい少年だった。
  2.  語り手には6歳年上の兄もいたが、近所に住むKとの方が気が合い、一緒に学校に通い、帰ると二人で遊んだ。Kは海の風景画を好んで描いたが、そんなとき語り手はKのとなりに座り、感心してその様子を眺めた。
  3.  語り手の住む地域では毎年のように台風がやって来るが、その年の9月の台風は10年に一度の最大級で、学校も休校になった。ゆっくりと進む台風が家を揺らしたり、大きな音を立てて瓦礫を吹き飛ばしているなか、家族で家に集まってラジオのニュースを聞いていた。一時間ほどすると台風の目の中に入り、大人達は被害の確認をしに回った。
  4.  語り手は、父親に許可をもらってから外へ出ると、Kも一緒についてきた。二人がいつものように海岸へ行くと、漂着物が打ち上げられていつもとは違う様子になっていた。海の怖さを理解していた語り手は、十分な距離を保って海辺を散策した。地面を震わせるような轟音に恐怖を感じ、Kを呼んで引き上げようとするが、Kの耳には届かなかった。
  5.  語り手はKに駆け寄って掴んで逃げようと思ったが、気がつくと防波堤に向かって一人で逃げ出していた。大声で叫ぶとようやくKもこちらに気づいたが、そのときにはKに高波が迫っていた。Kは必死に逃げたが波にさらわれてしまった。
  6.  語り手は呆然とその場に立ちすくんだが、しばらくして2度目の波がやって来た。語り手は波頭の中に横向きに浮かんでいるKの姿を発見する。Kは語り手をそちらの世界に引きずり込もうとするかのように、右手を差し出し微笑んでいた。語り手は気を失い、三日間意識不明になり、一週間のあいだベットで生活した。数週間後、学校にも通い始めたが、語り手は水中に引きずり込まれる悪夢を見るようになった。
  7.  語り手は町を離れたいと懇願し、父親の実家を頼って長野県に引っ越した。中学・高校・大学とそのまま長野で過ごし、そのまま長野の企業に就職した。悪夢の頻度は減ったが、全く無くなりはしなかったので、ずっと独身で過ごした。語り手は40年以上、故郷に戻らなかった。父親の死後、物置の整理をした際に語り手の子供時代のものが段ボールにまとめられて兄から送られてきた。その中に、語り手がKからもらった風景画のいくつかが入っていた。
  8.  語り手は思いきってその水彩画を取り出し、会社から帰ってくると毎日のように眺めた。そしてあるとき、自分はこれまで重大な思い違いをしてきたのではないか?と語り手は思い至った。Kは私を憎んだり恨んだり、あるいは何処かへ連れていこうとは思わず、笑っているように見えたのは私の思い違いではないか?彼はそのときにはもう意識はなく、あるいはKは私に向かって最後の別れに優しく微笑みかけていただけで、Kの表情に憎悪を感じたのは、そのときに私を支配していた恐怖の投影ではないか?と思い直した。
  9.  語り手は会社を休んで故郷に戻り、海岸を一人で歩いた。そして、彼の中にあった深い暗闇が消滅していることに気づいた。

 ”「恐怖は確かにそこにあります。……それは様々なかたちをとって現れ、ときとして私たちの存在を圧倒します。しかしなによりも怖いのは、その恐怖に背中を向け、目を閉じてしまうことです。そうすることによって、私たちは自分の中にある一番重要なものを、何かに譲り渡してしまうことになります。私の場合にはそれは波でした」”

 

問題の抽出 恐怖とは何か?

 この短編の怖さは本を閉じた後に始まります。つまり、順番に恐怖体験を語る話なのですが、七番目の男が語り終えた後に、読者である私たちに「恐怖とは何か?」を語る順番が回ってきます。 

   

関連する作品 一番重要なもの

①様々なかたちをとって現れるナニか

 

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②恐怖に背中を向け、目を閉じてしまうこと

 

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③一番重要なものを、何かに譲り渡してしまう

 

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全力考察 村上春樹が描きたいこと全部

 「村上春樹が小説で描きたいこと」が全部、この短編に著されていると私は思っています。その位、この短編は著者の作品を語る上で欠かすことのできない物語だと思っています。著者の用意した入れ物「波」に置き換わる、①~③の条件に当てはまる「ナニか?」を読者に想像させることが、著者が作家として物語に込める思いです。

 

①主観(概念メタファー)による世界の捉え方でひとつで、自分を取り囲む物事の全てが一変し、それらは自身をより良く知るきっかけとなる

②恐怖から目をそらすことが、何よりも一番恐ろしい

③恐怖から目をそらすことは、一番重要なものを手放すことだ

 

 そして、本を閉じた後に読者の物語が始まります。

 

まとめ 

 考察用のプロットがどうしても長くなってしまい、自分の力不足を感じます。短編の持っているムードも壊してしまっています。

 皆さんの「怖いもの」は何ですか?