パスタを茹でている間に

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三つの異界めぐり 死者の国からの生還

 春です。私の住んでいる地域ではやっと桜が満開になったかと思ったら、雨で散らされてしまいました。地面に落ちた花びらの絨毯もキレイだったりするのですが、桜色以外の花もたくさん見ることができる季節になりました。

 今回は、三つの異界めぐりについて三つの本をご紹介したいと思います。

 

異界めぐりの類似と相違

 これからご紹介するのは異界(死者の国)めぐりの神話なのですが、それぞれ似ているようで、強調されている部分は三つとも違います。簡単に一行で書いてしまうとこんな感じです。

  •  イシュタルの冥界下り 春の到来を祈る豊穣祈願
  •  オルペウスの冥府巡り 冥府王の心をも動かす竪琴
  •  イザナキの黄泉国訪問 死者との決別

「人は死んだらどうなるのか?」古代の人はどう思ったのでしょうか?

イシュタルの冥界下り 春の到来を祈る豊穣祈願

 まず、日本人にはあまり馴染みのないギルガメシュ神話より「イシュタルの冥界下り」です。

 ストーリーとしては、イシュタル(多数の神性を司る女神)が、その恋人であるドゥムズ(シュメールのタンムーズ神)が冥界に降りたまま帰ってこなかったので、冥界の女王エレシュキガル(イシュタルの姉)のところへ文句を言いに行く話です。

 ドゥムズ(ドゥム・ジ・アブス)は生命を育てる役割をもつ神(タンムーズ)で、半年は天界に半年は下界(地上)にいます。でも、冥界に降りたときにエレシュキガルに力ずくで引き止められ、戻れなくなってしまいました。

 そこで、イシュタルが恋人を取り戻そうと冥界に下ります。その際に、七つの門で門番に衣服や装飾具を順番に剥ぎ取られ、エレシュキガルの元にたどり着く際には素っ裸になってしまいます。

 衣服や装飾具は戻るときに返してもらえるのですが、「女神であろうと死者の国へ入る際は、身一つでないと入れない」というのはとても面白いです。

 

 

 こちらの本は専門的過ぎて、気軽に手に取れる本ではなかったと後悔しています。粘土板の欠損部分も含めてそのまま書き写しているような内容なので、研究者用でした。でも、面白かったです。

 イシュタルの冥界下りは豊穣祈願の式文とされています。が、私にとってのメインは女神のストリップです。

オルペウスの冥府巡り 冥府王の心をも動かす竪琴

 オルペウスの竪琴についてはご存じの方も多いかと思います。蛇に噛まれて死んでしまった妻(エウリュディケ)を連れ戻しに行く話です。

 こちらの神話で強調されているのはオルペウスの英雄譚で、冥府の門番ケルベロスや冥府の王ハデスを説き伏せる程の竪琴の音色です。

 「振り返って見るな」と言われていたのに、なぜ振り返ったのか?というと、「ハデスが自分をだまし、幽霊をつけてよこした」と不安にかられたからです。

 意外と知られていないのはオルペウスの最後です。彼はとてもモテたのですが、亡き妻を生涯想い続け、言い寄る女性を袖にし続けました。そして、嫉妬に狂った女性達に取り囲まれ、八つ裂きにされて川に捨てられるという痛ましい死に方をします。

 

 

 淡々と話が進められてとても読みやすい本でした。文庫本なのに収められている神話は多く、ギリシャ神話の全体像を掴むのにも最適です。

 ギリシア神話は無茶苦茶な神様ばかりですが、その中でもオルペウスの冥府巡りは、「死者の国から生還した」として、かなり特殊な存在となっています。

イザナキの黄泉国訪問 死者との決別

 日本の神話なので、ストーリーの説明は不要だと思いますが、こちらで強調されているのは「墓を掘り起こしてはならない」です。また、他の宗教と比べても「禊の儀式」を重要視しています。

 死者の亡骸を見ることは、死者を辱しめることだと戒めています。亡者を追い払うために首飾りや櫛や桃を投げつけるというのもユニークです。また、帰還後に水浴で禊をし、そこから他の神様が生まれるのも、なかなかのカオスです。(イシュタルとは反対に、戻る最中と帰った後で身に付けているものを外します)

 古代の日本も土葬でしたが、近しい親族を亡くし、恋しさと寂しさから、墓を掘り起こす者もいたのかも?は私の想像ですが、重たい墓石や千引岩で死者との決別をしているのは面白いです。

 また、「日本人はキレイ好き」と言われますが、神様が潔癖なので当然だろうと思います。教義はなくとも日本人の心に染み付いた感覚があります。

 エジプトではピラミッドの新発見が報告されていますが、日本の古墳では絶対に起こらないだろうと思います。盗掘を防ぐ狙いもあったのでしょうか?

 

 

 イラストや図表が多めで、教科書や参考書みたいで分かりやすかったです。ペラペラめくっていても面白いし、ボリュームもあります。

 古事記ではイザナミは死んでしまうのですが、日本書紀では死にません。なので、日本書紀ではイザナキは黄泉国へ行きません。